アジア

神秘的で広大なプリヤ・カーンとニャック・ポアンの魅力を堪能

カンボジアが誇る世界遺産「アンコール遺跡群」

アンコール・ワットが特に有名ですが、“アンコール遺跡群”という呼称からも分かるように、古代カンボジアの遺跡は大小合わせて700以上もあると言われています。

遺跡好きの私にとってアンコール遺跡群はずっと行ってみたかった憧れの場所であり、遺跡群への起点となる首都プノンペンから北西に約300km離れた小さな町「シェムリアップ」への旅行が実現した際には、遺跡巡りのみにほぼ全ての時間を費やしました。

そのときの模様をスポットごとにお伝えしているのですが、今回はこれまでの遺跡に比べれば足を運ぶ方が少ないかもしれない「プリヤ・カーン」「ニャック・ポアン」「プレ・ループ」の3か所をピックアップの上、魅力をまとめたいと思います。

神秘的な魅力をたたえる遺跡、プリヤ・カーン

まずご紹介する「プリヤ・カーン」は、アンコール・トムの北東1.5Kmほどの場所に位置する仏教とヒンドゥー教の習合寺院です。

その敷地は東西800m・南北700mに及ぶといいますから、かなり広大な遺跡と言えるでしょう。

実際にクメール王朝のジャヤーヴァルマン7世がチャンパ王国との戦勝を記念し、父親であるダラニンドラヴァルマン2世王の菩提寺として建てたというこちらの仏教寺院には、僧侶・奉公人・舞姫を含めて9万7840人もの人々が住んでいたとか。

寺院でありながら、一つの街のように機能していたのです。

なお私が訪れた際には正面の入り口部分が大規模な工事の期間中で、ガイドの男性に伴われて脇に逸れた道とも言えないような場所から遺跡の内部に進みました。

その前に訪れたベンメリアへの道すがら、地雷撤去が完了していない旨を伝えるブロックを幾つも目にしていたため、少し緊張しましたね。

中に入っていくと、荒れ果てた部分も目に付くのですが、アンコール遺跡には珍しい円柱状の柱などが姿を現し、圧倒的なスケールで迫ってきます。

遺跡の一部はガジュマルの樹に侵食されて窮屈そうな姿をさらしており、完璧に修復されていない点が、却って冒険心をくすぐってくるようです。

調べたところプリヤ・カーンというワードは“聖なる剣”を意味するらしく、かつて境内で発見され、現在はプノンペンの国立博物館に所蔵されている剣に由来するとのこと。

こういったエピソードも相まって、物語の中に登場するような遺跡だと感じました。

ちなみにプリヤ・カーンはタ・プロームと並び、映画「トゥームレイダー」のロケ地として使用されています。

まるでCGを駆使して作られたような眺めと世界観が現実に存在するわけですから、驚かされますね。

細かい部分の趣向も素晴らしく、壁に施された巨大なガルーダ像などは、今回の旅行において特に目を引くものでした。

感嘆の声を上げながら遺跡を見学していると、地元の子どもたちがこちらを伺っている模様。

どうやらアンコール遺跡群の多くは、子どもたちの遊び場という役割も果たしてようですね。

人懐っこい笑顔で近づいてくるので、こちらからお願いして写真を撮らせてもらい、お礼に日本から持ってきたお菓子を。

それを受け取った子どもたちは、はち切れんばかりの笑顔を見せて喜んでくれました。

ただこういった無邪気な姿に出会える一方で、観光客でにぎわう遺跡を中心として、生きるために商売をする子どもたちを大勢見掛けたことも事実です。

彼らは100円程度のバッグや土産物を手に近づき、PRを続けます。

買ってあげたいと思っても、その人数が多すぎて、一人ひとりに対応することは叶わず…。

彼らは私が日本人であるとすぐに分かるらしく、「お姉さん、可愛いですね。バッグを一つ、どうですか?」などと流ちょうな日本語で話しかけてきました。

戸惑う私が口ごもっていると首をひねり、今度は中国語で話し始めます。

中にはまだ足元もおぼつかないくらい幼い子どももいて、胸が痛みました。

子どものみならず、遺跡の周辺には傷痍軍人さんの姿もあります。

私は日本で一度も見掛けたことがなかったのですが、カンボジア内戦は1993年まで続いていたわけですから、戦争で様々な傷を負った方が大勢いらっしゃっても、何ら不思議はありません。

今回の旅で本当に良くしてくれたガイドさんも、私とたった一つしか年齢は違わないながら戦争経験者であり、当時の体験を振り返りながら、傷痍軍人さんに対しては必ずお金を渡すようにしていると語っていました。

これもまたカンボジアの現実であり、決して目をそらしてはならない問題だと感じます。

印象的だったニャック・ポアン、プレ・ループの両遺跡

続いての「ニャック・ポアン」は、今回足を運んだ数々の遺跡の中でも、特に独特なものでした。

仏教寺院の遺跡ながら、中央に大きな池と、その東西南北に4つの小さな池が見られ、中央の池の中心には人工島があり、その一辺350m四方の島に祠堂が立っているという実にユニークな作りをしているのです。

12世紀の後半にジャヤーヴァルマン7世によって作られた、“ニャック・ポアン=絡み合う蛇”を意味するこちらの遺跡。

もともとは医療目的で設計されており、ジャヤーヴァルマン7世が建てた数ある病院の中の一つだったそうです。

4つの池はそれぞれ水・土・火・風を象徴していて、ここに入れば病気が治ると信じられていました。

中央の池は“水源”として機能しており、こちらの出口から4つの小池に水が流れ出ていく仕組み。

小池への水の出口は小さな祠の中にあるのですが、ワクワクしながら覗いてみると、水の出口も面白い形をしています。

出口の形がそれぞれ、人間・ライオン・ウマ・ゾウの頭部をかたどっているのです!

それぞれの頭部の口の部分から、病を治すという“聖なる水”が流れ出る趣向ですね。

私は特にゾウの出口が気に入りました。

その日の最後に訪れたのは、961年にラージェンドラヴァルマン王がヒンドゥー教の寺院として建てたという「プレ・ループ」

ラージェンドラヴァルマン王は首都をコー・ケーからアンコールに戻した王で、首都が戻って最初に作られた国家寺院がプレ・ループです。

遺跡の名前になっているプレは“変化”、ループは“体”を意味していて、かつて境内で火葬をしていたことに由来するそう。

中央伽藍には、死者を荼毘に付す際に使用していた石槽があります。

三層の基段が重ねられた遺跡を登っていくと、四方に祠堂があり、それに囲まれた二層の基段が重なって、更に進んだ最上層には中央の祠堂がそびえたっていました。

高さがあるので、遠方まで見渡すことができます。

なおアンコール・トムの東に位置する東メボンの真南に建つプレ・ループは、夕日とアンコール・ワットが同時に見られるスポットとしても大人気!

特に夕暮れ時には多くの観光客が訪れ、上層を目指して上っていきます。

私も最上層からカンボジアの平原を見渡して、ゆっくりと沈んでいく夕日を鑑賞したのですが、このひと時が何にも代えがたいほど素晴らしいものでした。

この日は私たち以外の観光客は視界におらず、遠くから地雷を踏んだ人たちが奏でる音楽が聞こえてくる中、遺跡の階段に座りガイドさんとおしゃべりをして。

あの瞬間の、まるで夢の中にいるような光景は、今も忘れることができません。

数々の名所を巡りながら、これまで知らなかったアンコール遺跡も、全て見事なものなのだと痛感させられた今回の旅。

ガイドさんが心から“アンコール遺跡群の素晴らしさを伝えたい”と願っていることがよく伝わってきましたし、予定にないスポットまで回ってくれたのは、本当に有難かったです。

カンボジア、いつかまた必ず訪れたい国ですね。