西はドイツ・北はポーランド・南はオーストリア・東はスロバキアと国境を接する中欧の内陸国で、その位置から“欧州の中心”とも言われる「チェコ共和国」。
1993年にチェコスロバキアが分離して誕生した同国は、極めて安全であるとともに、おとぎの国に迷い込んだかのような美しい町並みを堪能できる、人気の観光スポットです。
その見どころは大変多いため、今回の記事では「テルチ」と「チェスキー・クルムロフ」に焦点を絞り、チェコの魅力をお伝えしたいと思います。
可愛らしい町並みの虜!テルチを訪ねて
まずご紹介するのは、チェコの首都であるプラハの南東120㎞、モラヴィア地方に中世の佇まいを留める町「テルチ」です。
プラハとウィーンのほぼ中間に位置し、チェコを東西に結ぶ通商路の要衝でもあることから、中世より栄えたこちらの町。
12世紀に礎が築かれ、1530年の大火では建物のほとんどが焼失したものの、当時の領主・フラデツ家のザハリアーシュは周辺の建物を全てルネサンス様式及び初期バロック様式に設計するよう定めつつ、建物の正面に関しては家主の自由に任せ、町の再建を図りました。
結果、住民たちは自らの富と社会的地位を周囲にアピールすべく、競い合うように趣向を凝らした家を建て、その外観美を競うようになったのです。
それゆえ今もテルチには、ピンク・黄色・白・青・緑といったカラフルな家々が立ち並び、非常に個性的な景観を演出しています。
一目見て、まるでおもちゃのような町並みだと感動するとともに、余りにも可愛らしい建物ばかりが軒を連ねていることへの違和感を覚えたのですが、その背景に“住民の競争心”があったと知り、納得がいきました。
一つひとつの建物をじっくり眺めるにつけても、“だまし絵”の要領で外壁を飾り付け、実際には平坦な壁を立体的に見せているものなどがあり、とても興味深いです。
日本の遊園地がヨーロッパ風の街並みを再現するべく、色々な工夫を凝らしているさまにも、通ずるものを感じますね。
とはいえ「モラヴィアの真珠」とも称されるテルチの景観は、決して安っぽいものではありません。
可愛らしさの中にも歴史を感じさせる“重み”が見て取れて、すっかり心を奪われてしましました。
18世紀に市民の寄付によって建てられたという聖母マリア像の姿も、強く印象に残っています。
ザハリアーシュ広場に立つこちらの像は、ペストの終焉を記念して建てられたとのこと。
ヨーロッパを旅していると、ペストにちなんだ記念碑や塔が散見されて、当時の人々の想いが伝わってくるようですね。
町の歴史に心を寄せて、ヨーロッパで最も美しい広場の一つとも言われる広場の様子を眺めながら、小さな喫茶店でほっと一息。
店内から覗き見る風景は絵画さながらで、目の前の窓も額縁のように思えてきました。
テルチを訪れたのは冬のことだったので、冷えた体に温かい飲み物も染みわたってきて、心が癒されていくのを実感します。
この日は他の観光客がほぼ見当たらなかったこともあり、本当に絵本の中へ入り込んでしまったような、不思議な感覚になりました。
世界遺産でありながら気ぜわしい雰囲気がなく、心落ち着く静かな佇まいを保っている点も、テルチという町の魅力ではないでしょうか?
どこまでも美しいチェスキー・クルムロフの町並み
時間が許すならばいつまででも滞在するのに…と後ろ髪を引かれつつ、テルチを出発。
次の目的地へ向けて、再び移動を開始します。
次に訪れたのは、チェコ南部のS字に蛇行するヴルタヴァ川に囲まれて息づく「チェスキー・クルムロフ」。
中世の町並みを留める、チェコで一番美しいと言われる町のひとつです。
チェコ有数の観光スポットで、旧市街を見下ろすようにそびえたつ「チェスキー・クルムロフ城」は、古城(キャッスル)と城館(シャトー)が一体となったユニークな城。
城の建築構造・建物外観・内装には14世紀から19世紀に掛けての建設活動の軌跡が残されており、城主が目まぐるしく変わるという複雑な歴史をたどったがゆえに、中世の古城・華麗なルネサンス式の城館という2つの顔を、一か所で堪能することができます。
城内をよくよく眺めていると、ここにも“だまし絵”が!
じっくり巡るほどに見どころが多い、魅力にあふれた城ですね。
なおチェスキー・クルムロフはかつて、チェコで最高権力を握る貴族たちが本拠地に定めた場所だったのですが、産業革命の進展に取り残されると、19世紀にオーストリア=ハンガリー帝国の支配下、20世紀にはドイツ領になります。
第二次大戦後はチェコスロバキアに復帰するも、共産主義化によって荒廃。
しかし苦難の歴史は1989年の自由化によって転機を迎え、歴史的建造物の修復が進められるようになりました。
やがて、中世の時代風景が稀に見るかたちでそのまま損なわれることなく保存されていると評価され、1992年には町ぐるみでユネスコ世界遺産へ登録されることに。
なるほど“シュマヴァ山地の門”とも呼ばれている緑豊かな街並みと、それを取り囲むようにして蛇行する川、さまざまな建築様式で彩られた歴史的建造物をしみじみ眺めてみれば、この景観は昔から全く変わっていないのではないかと感じますね。
むしろ自分が中世にタイムスリップしたと錯覚する方も、いらっしゃるでしょう。
ちなみにチェスキー・クルムロフを訪れて一番心が震えたのは、高い場所から町全体を俯瞰した瞬間でした。
無造作にカメラを向けて写真に収めるだけでも、一服の絵画のような、素晴らしい風景を切り取ることができるのです。
天気に恵まれて、頬を優しくなでる風も心地よく、自然とキラキラした感情が内から湧き上がってきます。
遠い異国の地で、とても素敵な町を訪れることができました。
一方で残りの時間に何気なく町中を散策してみると、現代アートのポスターが散見されるなど、チェスキー・クルムロフは芸術にあふれる場所ということも分かりましたね。
どうやらこの地にはアートセンターもあり、新旧の芸術がうまく溶け合いながら、新たな価値を創造し続けている様子ですよ^^
ヨーロッパの街並みはどの国においても一様に美しいものと考えていましたが、実際に各地を訪れて深堀りしてみると、それぞれの景観はどれも魅力的でありつつ、確かな独自性をたたえていることが分かってきました。
あくまで私見ではあるものの、オーストリアは洗練されている、ハンガリーは美しくも素朴で品がある、ポーランドは荘厳で歴史を感じさせる、イタリアは華やか…といったイメージです。
そしてチェコの場合は、とにかく“可愛い”と言えるでしょうか。
子どもの頃に本やアニメを通じて憧れていたような世界が、チェコには広がっていました。