クメールの人々がたたえる穏やかな微笑みが印象に残る国、「カンボジア」。
同国における旅のハイライトは、何と言っても世界遺産「アンコール遺跡群」でしょう。
中でもアンコール・ワットは特に有名ですが、“アンコール遺跡群”という呼称からも分かるように、古代カンボジアの遺跡は大小合わせて700以上もあると言われています。
私は遺跡群への起点となる首都プノンペンから北西に約300km離れた小さな町「シェムリアップ」を訪れた際、主な遺跡であればどこでも入場することできる「アンコールパス」を購入し、できるだけ多くの遺跡を見学したいと走り回ってきました。
結果、現地で出会った男性ガイドさんの協力もあり、通常のツアーではなかなか入り込めないような場所も含めて、様々なスポットに足を運ぶことができたのです。
以前の記事では、その中でもアンコール・トム、タ・プローム、アンコール・ワットの3つに焦点を当てて旅行記をまとめましたが、今回は「ベンメリア」「ロリュオス遺跡群」「バンテアイ・スレイ」をピックアップして、その魅力をお伝えしたいと思います。
一番素晴らしかった遺跡!ベンメリア
まずご紹介する遺跡「ベンメリア」は、アンコール・ワットから東に40Kmほど離れた森の中にあります。
ガイドさん曰く近年まで道中に山賊の被害が見られたほか、地雷の撤去が終わらず見学が難しかったそうですが、今はもう大丈夫とのことでした。
ともあれ40kmもあると、やはり移動に時間が掛かります。
車窓の景色も変わってきて、特に“この先は地雷が残っているので侵入不可”と知らせるブロックや、駐車場の入り口にあるようなゲートの棒が手動で動かされている様子は、かなり印象に残りました。
さて到着したベンメリア遺跡は、アンコール・ワットより前の11世紀末から12世紀初頭に掛けて建設されたのではないかと言われています。
少し小さめではありますが、アンコール・ワットに様式が似ているため、“東のアンコール・ワット”とも称されていますね。
1990年代に発見されて、外国人に公開されるようになったのは2001年以降と、つい最近のこと。
遺跡は損傷が激しく、修復が施されないまま放置されており、いまだその全貌は明らかになっておりません。
しかしこの“手付かずの状態”こそが、ベンメリアの見どころでもあります。
倒れたまま放置された巨石の数々と、それを覆う苔、我が物顔で崩壊した遺跡内にはびこる様々な植物…。
観る者を圧倒する遺跡の様子は、「天空の城ラピュタ」のモデルになったとも言われています。
なお通常は設置された足場から見学するのですが、ツアーのように大勢の人がいないからということで、ガイドさんが遺跡の内部まで案内してくれました。
日の光が届かない遺跡の内部はますます神秘的で、映画やゲームの世界に迷い込んでしまったよう。
しかし、おそらくこの風景が日常である現地の子どもたちが、石に上り、植物の蔦をブランコ代わりにして、器用に中を駆け回っていました。
これほどの規模を誇る遺跡ですから、かつての繁栄ぶりには凄まじいものがあったのでしょうが、今は森の中に放置され、子どもたちの遊び場になっているー。
その現実が、ベンメリアは謎の多い遺跡ということと相まって私の心を捕え、激しく揺さぶります。
一抹の無情感を抱かせる一方で、“ありのまま”の遺跡の姿はどこまでも美しく、胸がいっぱいになりました。
私はこのベンメリアが、数あるアンコール遺跡の中でも一番好きです。
ロリュオス遺跡群にクメール文明の原点を見る
続いて向かったのは、アンコール・ワットから遡ること300年、クメール王国の最初の王都ハリハラーラヤに築かれた最古の寺院を有す、ロリュオス。
アンコール遺跡群における“最古の遺跡群”と言われる「ロリュオス遺跡群」は、アンコール王朝始まりの地にして、クメール文明の原点です。
最初に足を運んだ「プリア・コー」は、そんなロリュオスの中でも最も古いとされている遺跡。
“聖なる牛”を意味するこちらの遺跡では、シヴァ神の乗り物とされるナンディン牛が祠堂正面に三体並んで神が堂から出て来るのを待っている、印象的な像を見学します。
同じくロリュオス遺跡群を構成する「バコン寺院」は、5層のピラミッド型に構成され、アンコール・ワットの原型になったとも言われる壮大な遺跡。
こちらの遺跡にも動物の形をした像が幾つも配置されており、興味深く鑑賞しました。
アンコール・ワットとよく似た外観で、遺跡の規模もかなり大きなものでありながら、より原初的な佇まいと荒々しさをたたえている点が、バコンの魅力ですね。
実際に訪れるまではマークしていなかったものの、こちらも素晴らしいスポットでした。
バンテアイ・スレイで“東洋のモナリザ”に出会う
当初の予定にはなかったのですが、アンコール・ワットの東北部に位置し、シェムリアップの街から40Kmほど離れたところにあるヒンドゥー教の寺院遺跡「バンテアイ・スレイ」にも足を延ばしてきました。
こちらはタ・プロームと並び、ガイドさん一押しの遺跡ということです。
ちなみにバンテアイは“砦”、スレイは“女”を意味するとか。
すなわち“女の砦”という名の遺跡というわけですね。
なるほど実際に見学してみると、バンテアイ・スレイはアンコール遺跡群の中でも規模の小さい遺跡ながら、全面に精巧な彫刻が施され、とても優美な印象です。
大部分が赤い砂岩によって建てられている点も、これまでに見た遺跡とはまた違う雰囲気を演出しており、“女性”を感じさせます。
“アンコール美術の至宝”と称えられていることも、納得できますね。
なおラージェンドラヴァルマン王が臨席する下で着工式が行われ、息子のジャヤーヴァルマン5世の時に完成したと言われるこちらの寺院は、1923年にフランス人の作家で冒険家のアンドレ・マルローが遺跡の女性像に魅せられ、発掘・持ち出し逮捕されたことで注目を集めました。
やはりどうしようもなく人を惹き付ける力が、この場所にはあるのでしょう。
そんな遺跡における最大の見どころは、柔らかな曲線で彫られ、“東洋のモナリザ”とも呼ばれるデバター(女神像)。
気品すら感じさせる彫刻の数々に彩られたバンテアイ・スレイは、保存状態も良く、必見の遺跡と言えそうです。
少し遠くはありますが、ガイドさんから是非にと勧められ、急遽スケジュールに組み込んで良かったですね^^
そういったわけで前回紹介したスポットに比べると知名度こそ低いかも知れませんが、オプション的に訪れた今回の遺跡も、魅力という点では全く劣るところがありませんでした。
むしろ個人的には移動の時間も含めて、より自然なアンコール遺跡郡の様子を垣間見ることができたようにも思え、特別な旅の思い出となりましたね。
当初は「郊外に向かうのだから、トイレなどの不自由は覚悟しないといけないかな…」との心配もあったのですが、何か不都合が生じたという記憶はありません。
やはり世界的な観光地ということもあって、シェムリアップの周辺はどこも清潔なのではないでしょうか。
そういえば途中に立ち寄ったレストランのトイレで、若く可愛らしい女の子がかいがいしくドアを開けながら「肌が白くてキレイね。羨ましい」と褒めてくれたのですが、途中でチップを待っているのだろうとピンときて、渡したことを思い出しました。
ちょっとした出来事がやたら印象に残るというのも、旅行あるあるかも知れませんね。